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瀬上の森と谷戸の全景

 現在、瀬上の森に大規模な開発計画が進んでいます。
 ここでは、その計画の経緯と現時点の内容、そして今後の方向性をできるだけ客観的にご紹介します。またこの内容は、計画や検討の進捗に合わせて随時更新をして参ります。

 詳細について関心をお持ちの方は、このHPからリンクを張っている瀬上の森パートナーシップのHP(ブログ)をご覧いただければ、過去2年間の経緯を時系列で確認いただくこともできます。

==>参照:開発地図[(仮称)上郷開発事業環境影響準備書より]

瀬上の森パートナーシップ(SMP)事務局
「開発計画の状況と実行ある保全」を冊子としてまとめPDFファイルにしました。  New
【目次】
 1.開発計画に対する私たちのスタンス
 2.開発計画の経緯
 3.計画の再浮上から環境アセスメントへ
 4.環境アセスメントの機能と進捗
 5.都市計画と提案制度について
 6.「保全」の意味するものと保全に必要な条件(その1:ビジョン)
 7.保全に必要な条件(その2:土地の所有や占有)
 8.保全に必要な条件(その3:維持管理)
 9.協働によるコスト負担への提案(1)
10.協働によるコスト負担への提案(2)
11.実効ある保全とは


1.開発計画に対する私たちのスタンス

 私たちの会は2005年7月の発足以来、樹林と水辺が織りなす谷戸の景観と生態系や文化財を適切に保全することを目的とし、会の名前に「パートナーシップ(協働)」という言葉をつけてきました。

 その意味は、この谷戸の景観を適切に保全していくためには、瀬上の森に親しむ市民や環境保全活動に汗を流すボランティアたちのパートナーシップだけでなく、行政(横浜市・神奈川県)や地権者(事業者)とのしっかりしたパートナーシップが何よりも必要だと考えているからです。

 もちろん緑地や水辺に開発事業が入り込むことなく解決できるのが一番であることは言うまでもありません。

 しかし一方で、この森は地権者(地主)が保持している民有地です。民有地である以上、まずは地主さんの意思を尊重するというのが話し合いのスタートではないでしょうか。私たちは、地主さんや事業者が現在の開発計画を進めるに至った背景や経過も踏まえ、行政の考え方も理解して、適切な保全のために市民の立場で何ができるのか、ということを考え、必要に応じて提案をしてきました。

 特に土地の所有や開発というのが経済行為である以上、それを見直すにはその土地の経済価値に応じた補償と、今後その土地を維持管理していく費用という二つのお金の問題を避けて通るわけにはいきません。

 私たちは、市民と行政が共にコスト(お金と作業)を負担して協働でこの谷戸の景観を保全することを横浜市に提案してきました。また保全と両立する開発ということが成り立つのかどうか、という話し合いを事業者とも行い、(後で解説する)環境アセスメントにも積極的に取組んできました。

 今後も、瀬上の森で汗を流す環境保全活動を通じた知識や体験を生かしながら、「瀬上、谷戸のくらし野外ミュージアム」の実現という形で、次の世代に谷戸の景観を残し、適切な維持管理の活動を続けていくことが私たちの目標です。

 そのような立場から、私たちはともすれば対立的に物事を捉えがちな政治的な動きとは距離をおき、署名運動のような示威的な活動も行っていません。
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2.開発計画の経緯

 1960年代頃まで、田んぼが広がり小川や水路が走り、樹林や草原がそれを囲む、いわゆる里山的な風景が日本中で見られたものです。横浜ではその原風景と呼ばれる谷戸という地形の中にこのような里山的な景観が作られ、瀬上の森でも一面に谷戸田が広がっていました。

 ところが化石燃料への依存、高度成長、農業政策の転換は、都会に近い農地の開発や耕作放棄を進める結果となりました。港南台から本郷台にかけての港南区と栄区の街全体がそのような開発の結果とも言えます。多くの緑地や農地がどんどん消えていく中で、瀬上の森はその開発の波の中で緑地のままで残っていきました。

 これには1968年に新たな都市計画法が制定され、計画的な市街化が進められる一方、 開発を抑制すべき地域を市街化調整区域に指定する、という仕組みができたことも関係しています。

 瀬上の森を含む円海山緑地は市街化調整区域に指定されたのです。しかしながら、市街化調整区域であっても、公共事業や区画整理など、公益や計画的な整備の裏づけがある場合には、一定の条件のもとで開発が認められることもありましたが、市街化調整区域の開発には県知事の許可が必要になります。

 そのような条件のもとで、瀬上の森でも市街化調整区域のままでの開発が民間の事業者により計画されました。折から、高齢化や農業経営の厳しい環境、それに伴う農業の後継者の不足などもあり、この開発計画を機会に農地や樹林を手放すことを考える方々もでてきました。

 こうして今から約20年前に、今回の計画区域とほぼ同じ面積の大規模開発の計画が進められ、環境アセスメントも実施され、横浜市に開発認可を求める手続きも行われました。

 しかし当時の神奈川県は、市街化調整区域の開発には慎重な姿勢を示し、一方でいわゆるバブルの崩壊という経済環境の激変もあり、この計画は「凍結」状態に入りました。その間に当初の事業者は倒産し、この事業は開発が認められれば施工者となるはずであった現在の事業者に引き継がれることになったのです。
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3.計画の再浮上から環境アセスメントへ

 今回再浮上した開発計画が明らかになったのは2005年(平成15年)の3月でした。もっとも市のホームページに掲載された小さな議事録に気が付いた市民はほとんどいなかったと思いますが。

 私たち、SMPが横浜市に確認して明らかとなったのは、計画面積は34ha、造成面積は21ha(横浜スタジアム8個分)。山を崩して谷を埋めて川を作り直して、商業施設と住宅と福祉施設を作るという計画です。おそらく計画の凍結中も事業者と横浜市の調整が進んでいたと思われますが、この年の3月に行われた横浜市の都市経営執行会議という副市長レベルの会議で、この開発計画(仮称上郷開発事業)を横浜市として「開発誘導」することを了承しました。

 今回の計画が前回と大きく異なるのは、開発抑制の市街化調整区域のままでの開発でなく、2002年(平成14年)に作られた「都市計画提案制度」によって市街化調整区域から市街化区域にいわゆる線引きを変えてから開発に着手するということです。開発計画の自由度は前の計画よりも格段に大きくなります。また開発誘導とは横浜市によれば、開発を認めたということでなく開発の可否検討を含めた手続きを進める、という意味だと説明されています。

この開発誘導にあたって、横浜市と事業者は3つの条件を確認しています。
  • 計画地の約半分の緑地(樹林と開発後の公園等の合計)を横浜市に寄付する。
  • 暫定2車線で開通している都市計画道路(舞岡上郷線)を事業者負担で4車線にする。
  • ホタルの生息環境を保護する。
 その上で、開発に着手した場合は事業者が途中で放棄せず計画をやり抜けることを確認し、開発が他の市街化調整区域にも広がっていかないようにする、という市の意見も添えられました。

 当初は、2005年中にも都市計画を変更する提案が事業者(地権者)から行われる予定でした。このためSMPでは、神奈川県や横浜市そして事業者である東急建設とも協議を行い計画の実態を把握する一方、関係する環境保全の団体とも連携して知事や市長に都市計画の見直しや開発許可の審査には慎重な対応をするように要望を行いました。

 特にこれだけの規模の開発が瀬上の森の自然環境に大きな影響を与えることが予想されたため、環境アセスメント(アセス)の実施を強く求めました。しかし当初は、20年前の前回の開発計画時に一度アセスを済ませていることから、横浜市も事業者も「条例上はアセスを改めて実施するには及ばない」という考え方でした。しかし、この20年の間に社会の環境意識にも大きな変化が生じており、企業の社会的責任としてアセスの再実施が必要なことを専門家方々の支援をいただきながら横浜市と事業者に強く訴える中で、事業者も都市計画審査の重要な項目である環境配慮への説明責任のため、アセスの「事実上の再実施」を決断しました。

 一方で横浜市は、環境配慮の審査の重要な手続きであるアセスが終わるまでは、都市計画の提案があっても審議には入らない、というスタンスを明らかにしていました。こうして2006年2月からのアセスの実施により都市計画見直しの議論は少なくとも1年以上は延期される見通しとなりました。

 ただ、アセスの再実施に至るまでの間にも、横浜市や事業者との意見交換を続ける中で、都市経営執行会議で検討された図面は、いくつか書き換えられていきました。例えば、当初の計画では水路の両側が切り立った壁面であったものが、水路周辺の幅を広げることで斜面をなだらかにして緑地を増やし環境保全措置をとりうる余地がでてきました。それと共に住宅地になる計画であった横堰や貝化石という隣接する文化財は破壊を免れることになりました。また都市公園にする計画のため生態系への大きな負荷が危惧されていた谷戸の低地を、谷戸田の再生も視野に入れた湿地として維持することも図面に盛り込まれました。

 それでも開発に伴う多くの課題は残っており、それらについては環境アセスメントの中で審査されることになり、2006年2月にアセスの方法書の縦覧が開始されたのです。


4.環境アセスメントの機能と進捗

 環境アセスメント(アセス)とは正式には「環境影響評価」と言います。
 道路やダムや大きな建物を建設したり、それに伴って自然を改変したりする時に、その事業の実施が周辺環境に与える影響を予測して、その影響を回避したり低減したり、あるいは代償という措置をとって影響を最小限にすること、そしてそのような環境保全措置が有効かどうかを評価することです。ここでいう「環境」とは、自然や生きものだけでなく、大気や水の汚れから騒音、交通、ごみ処理など広い範囲が対象になっています。

 アセスそのものの詳細な説明はやや難しくなりますのでここでは省きますが、例えば市民の視点からアセスを実施することで期待できる効果が二つあります。一つは、実施される事業がどのようなものかということが詳細に開示され、また環境に対してどのような影響があり得るのかということもある程度明らかになることです。【情報公開機能】 またアセスの方法書、準備書、評価書という3つの段階で、市民が意見を出し、その内容に対する事業者(行政あ
るいは民間)の見解を第三者の専門家によって構成されるアセス審査会が審査する、という行政を介した事業者とのコミュニケーションの場となる、ということです。【コミュニケーション機能】

 事業を進めようとする事業者側からすれば、時間とお金のかかるこのプロセスを踏むことによって、市民や行政に対して一定の説明責任を果たすことができます。その意味で、私たちは当初からアセスの再実施を求めてきましたし、最終的に事業者がアセスの再実施を決断したことについては、企業姿勢として一定の評価をしています。

 もちろん制度の趣旨は立派であっても、その運用や市民の参画の度合いや審査委員の力量次第で効果は変わってきます。したがって、私たちはこれまで瀬上の森で行ってきた生きものの調査や保全活動を通して得た知識や情報を活用して、計画に内在する多くの課題を意見書や意見陳述、そして横浜市への直接の働きかけのなかで指摘してきました。

 
【その一部は、下記のURLを参照ください。 】
■方法書への意見書
  SMPの意見書の項目を公開します 参照
 http://ameblo.jp/segami-ps/entry-10011063655.html
■準備書への意見書
 アセス準備書へのSMPの意見書です 参照
 http://ameblo.jp/segami-ps/entry-10023432225.html
■評価書への意見書
 アセス評価書へのSMPの意見書です 参照
 http://ameblo.jp/segami-ps/entry-10039699179.html
環境アセス講座
 環境アセス講座「ブログ教室編」(その1)] 参照
 http://ameblo.jp/segami-ps/entry-10022423030.html
 環境アセス講座「ブログ教室編」(その2) 参照
 http://ameblo.jp/segami-ps/entry-10022423463.html
 環境アセス講座「ブログ教室編」(その3) 参照
 http://ameblo.jp/segami-ps/entry-10022477476.html


 この指摘に対する事業者の回答や姿勢から、ホタルや野草や樹林の保全にどのような解決課題があるのかがわかりました。将来の緑地や湿地の維持管理の主体にしっかりした裏づけがないこともそうです。それに交通渋滞や歩行者道路の新設による住環境への懸念もすべてアセスの中で実態が明らかになったものです。

 またアセスそのものは開発計画の是非を議論してそれを止めるためのものではありません。しかし、解決すべき課題が公の場で明らかになることによって、私たちはしっかりした解決策を堂々と求めることができるのです。言い換えれば、アセスのプロセスの中で指摘される環境影響やそれに対する保全措置の良し悪しは、開発の是非や内容を検討する行政の判断にも影響を与えます。

 今回、昨年(06年)の2月に方法書が縦覧されたアセスは、06年11月に準備書の、そして今年(07年)の7月に評価書の縦覧が行われ、そのたびに多くの方々が意見書を出され、そして現在(07年8月)アセス審査会で評価書の審査手続きが進んでいます。

 おそらく07年度内にはアセス審査会から横浜市長に対して環境影響評価審査の答申が出されることも予想されます。私たちは、このアセスの実施、つまり「情報公開」と「コミュニケーション」という二つの機能を通して明らかとなった多くの課題に対して、どこまで適切な保全措置がとられるのか、あるいはその結果がこれからの手続きにどのように反映されるのか、ということをよく把握して、引き続き実効ある適切な保全のための提案を続けていきたいと考え
ています。


5.都市計画と提案制度について


 都市計画とは、計画的な街づくりの設計図であり、国、県、市町村といったそれぞれのレベルの行政の責任で 決められるものです。今回の開発計画の対象となっている土地はすべ て基本的に開発が抑制されている「市街化調整区域」に指定されていますが、市街化調整区域のままにしておくのか計画的な開発を進める市街化区域にするのかを決める権限は神奈川県にあり、横浜市はその枠の中で街づくりや利用の形態を決めていきます。

 横浜市では各区を単位として都市計画マスタープランが作られています。瀬上の森がある栄区でも、区が区民の意見を聞きながらマスタープラン作りを行い、2004年(平成16年)の12月に「栄区まちづくり方針」が制定されました。マスタープランは区と区民の総意であると言われる所以です。

 この栄区のマスタープランでは、瀬上の森の周辺は大きく二つの丸で区域が分けられています。舞岡上郷線の西側(山手学院側)は赤い丸で「周辺環境に配慮した計画の誘導」、東側(瀬上池側)は緑の丸で「緑と水の拠点として保全・整備・活用の検討」と記載されています。これだけですと、今後の保全の方針も明らかなように思えますが、この解釈をめぐって関係者の間にはいろいろな意見があります。

 例えば、赤い丸緑の丸にかかわらず現在の緑地はすべて保全すべきだという意見もあれば、赤い丸は環境配慮の上で一定の開発を認めざるを得ないだろうが緑の丸の範囲までは造成すべきではない、という意見もあります。一方で地権者(事業者)は、もともと自分達はここを開発する意向を明らかにしていたのだから勝手に開発がいいとか悪いとか決められても困るし、現在の計画は水辺や緑地を残す環境配慮をしているのでマスタープランからも逸脱はしていない、という考え方のようです。その中で横浜市は、赤い丸も緑の丸も大体の範囲を示すもので大きさそのものを厳密に決めたものではなく、今回の計画がマスタープランと整合しているともしていないとも言えない、という説明をしています。つまりマスタープランはあるけれど、立場によって玉虫色に見えるため多様な議論を引き起こしています。

 一方で今回の事業者の計画には、このようなマスタープランについての解釈の違いとは別に、新たにこの地域の都市計画を決めなおそうという前提条件があります。都市計画は行政の責任により定められるもので、定期的な見直しはありますがそれだけでは地域のニーズにあった柔軟な街づくりを妨げることもあるという趣旨から、平成14年に「提案制度」が制定されました。提案制度では、地権者の3分の2以上の同意があれば、地権者自身や街づくりNPOなど民間からも都市計画見直しの提案ができます。ただし、その提案を都市計画に反映するかどうかは、従来どおり行政の審査によって決められます。

 計画されている街づくりや提案の概要も、既に環境アセスメントの過程で明らかになっています。まず神奈川県に対しては市街化調整区域から市街化区域への変更を提案し、同時に横浜市に対しては、街づくりのための土地の利用や建物の大きさの規制などを提案する、というものです。このような提案が出された場合、県や市では提案を評価する会議または委員会で、民間からの提案を県や市の都市計画案にするかどうかを検討します。都市計画案となった場合は、行政から市民に説明会や公聴会が行われ市民の声を反映した上で、県・市それぞれの都市計画審議会という第三者の入った機関で審議されて最終的な都市計画となります。ただ事実上、県や市の評価の会議または委員会が大きな方向を決めると言えます。もちろん県が市街化区域への編入を認めなければ市への提案も成り立ちませんので、県はその判断にあたって市の考え方をよく確認する意向であることを明らかにしています。

ちなみに横浜市は、提案の採否を判断する評価基準として下記のような点を見ていくと説明しています。
  • 横浜市のまちづくりの方針に則している
  • 当該土地の周辺環境に配慮されている
  • 周辺の住民との調整が整い、概ね賛同が得られる
  • それぞれの法律、条例、規則等に則している
 最近も横浜市内で市街化調整区域の樹林地を市街化区域に編入して商業施設を核とした街づくりをしたい、という瀬上の森に類似した提案が行われましたが、神奈川県ならびに横浜市は約1年の検討の結果、この提案を認めない判断を下しました。判断に至った理由は横浜市によれば、「市のまちづくりの方針と整合が図られていないことと、神奈川県が市街化編入を認めなかったため」と説明されています。都市計画の判断はそれぞれのケースごとに審査されますので個別の背景や事情をよく理解する必要がありますが、少なくとも市街化区域編入の提案が行われても行政が認めない事例がある、ということは、重要な事実として認識しておく必要があると言えます。

 事業者は、環境アセスメントのプロセスが終われば、速やかに都市計画提案をする意向をもっているようですので、年度内にも提案が行われる審査のプロセスに入る可能性があります。


6.「保全」の意味するものと保全に必要な条件(その1:ビジョン) 

 「瀬上の森の谷戸の景観と生態系や文化財の適切な(実効ある)保全」を活動の目的にしている私たちは「保全」という言葉をできるだけ具体的に、また慎重に使っていきたいと思っています。手元の辞書では「保全」とは「保護して安全に守ること」とありますが、それでは瀬上の森を保全するには開発さえしなければよいのでしょうか。私達は、開発行為があるよりは無い方がはるかに望ましいと考えていますが、一方で、「開発の中止=環境保全、ではない」ということも理解いただきたいと思っています。

 結論から言えば、事業者(や地権者)が開発の意思を持っている民有地の環境を保全するためには、次の3つ課題を解決しなければ「本当の保全、実効ある保全」は実現できません。

(1) そのフィールド(場所)をどのような姿で残したいのか、というビジョンの確認と共有
(2) そのフィールドを所有あるいは長期にわたって占有するコスト(所有占有コスト)の負担
(3) そのフィールドを維持管理するコスト(維持管理コスト)の負担


(1)ビジョンの確認と共有とは

 多くの人たちが残したいという瀬上の森とは現在の森の姿でしょうか。
事業者が草刈はしているものの、かっての谷戸田跡の湿地は乾燥化が進んでおり希少な生きものを含め生態系への影響が懸念されています。市民の森につながるいたち川支流沿いだけは行政による整備や環境保全ボランティアによる清掃が行われていますが、市民が樹林を散策できるような遊歩道やトイレすら整備されていません。心無い人達による野草の盗掘、無秩序な採集、生きものの持込みなどを防止するような責任ある監視体制もできていません。

 単に「今のまま残す」ということは、生きものや生態系を守るという意味でも、自然との触れあいを楽しむ市民の安全という意味でも、フィールドの維持管理の視点からも望ましい状態であるとは言えず、徐々に進行している環境の悪化を加速する可能性すらあるのです。

 瀬上の森をどのような姿で残したいのか、そのビジョンを明らかにしなければ、具体的な保全計画もそのための整備や活動も成り立ちません。

 例えば私たちは、このHPの開設理由である「瀬上、谷戸のくらし野外ミュージアム構想」という将来ビジョンを提案して、谷戸田が広がっていた昭和30年代以前の谷戸の景観を、市民ボランティアと行政の協働により実現することを目指していますが、「保全」を実現する第一歩は、「何をどのように守るのか」という基準になるビジョンを共有して、そのビジョンを実現し維持するための計画や作業分担を明らかにすることだと考えています。


7.保全に必要な条件(その2:土地の所有や占有)

(2)所有あるいは占有のコスト

 今回の開発計画地は「民有地」です。市民や行政がどのような保全のビジョンを持っていたとしても、その土地の地権者(地主)の協力がなければビジョンの実現も環境の保全も絵に描いた餅でしかありません。まずは、事業者(や地権者)の意思を尊重するとともに、保全のビジョンへの理解と協力を求めるべきであると考えます。

 事業者(や地権者)の同意なく、開発の中止だけを求めるということは、法的に保護された事業者(や地権者)の私権の制限を求めていることになります。私権を制限しようとするのであれば、別の法的な裏づけを示すか、合理的な代替の補償を明らかにすべきであり、法的裏づけや補償の提案なしで権利の制限を求めることには慎重であるべきではないでしょうか。

 それなら(法的に裏付けられた)行政の総合的な判断で今回の開発計画の認可は行わない、ということになれば、それで一件落着でしょうか。その場合には、事業者(や地権者)は例えば下記のような選択肢を持つことになるのではないでしょうか。

   @開発のめどがつかないまま保持し続ける
   A第三者に売却する
   B行政(横浜市)に売却または賃貸する

 @の場合、企業(事業者)にとっては活用の余地のない資産を保持し続けることになり、長期に渡って計画地を安定的に保有するとは考えられません。加えて活用できない土地の維持管理に十分な費用をかけるとも思えず環境が現状よりも悪化することが懸念されます。
  
 Aの場合が現状ではもっともありうるケースです。事業者も環境アセスメントの評価書で開発が止まった場合には転売する意図のあることを示唆しています。市街化調整区域とは何も建てられない場所という意味でなく、申請により資材置き場、特別養護施設、ゴルフ練習場、墓地などへの転用も考えられます。これらへの転用は、十分な社会インフラの整備を伴わない開発となり、いわゆるスプロール現象あるいは乱開発につながりがちです。
環境への影響を管理する仕組み作りも難しくなり、生態系に影響の大きな環境変化の進行が否定できません。

 Bの場合、行政の買収の意思を前提として、事業者が土地を行政(横浜市)に売却するということです。事業者(や地権者)は、条件が合理的であれば市への売却も考慮する余地があると考えるのが自然ですし、取り得る3つの選択肢の中では、一番望ましいことは言うまでもありません。
 しかし一方で、これが市民や行政にとって一番努力の必要な道であることも事実です。

 つまり、「計画が止まるだけでは保全の実現には至らない」のです。
結局、安定した保全の第一歩は、保全をしたい部分を公的に所有あるいは占有することですが、最大の課題は、所有あるいは占有のコストを、誰が、どうまかなうかです。

 また、事業者の計画の前提であった「開発誘導条件」の存在が、横浜市に大きなジレンマを与えることになります。
事業者は横浜市の開発誘導決定にあたって、開発後の緑地の50%を市に無償で譲り渡す(寄付・帰属)と言っていますので、現行計画通りであれば計画地の半分はコストをかけずに事業者から市に譲渡されるのですが、計画が止まったり条件が変わればその前提も代わり得る可能性があります。

 また、計画通りなら事業者の負担で拡幅できる都市計画道路の舞岡上郷線を自らの負担で拡幅する必要がありますので、これらのコストも上積みして財政的な負担を算定することになるでしょう。


8.保全に必要な条件(その3:維持管理)

(3)維持管理のコスト

 瀬上の森のような谷戸環境における維持管理とは「生態系への配慮」と「周辺住民や利用者の安全」を前提に、以下の要素を包含するものでなければならないと考えられます。


@ビジョン作りと関係者の合意形成
 この点は上記でお話ししたことの繰り返しになりますので詳細は割愛します。
 ただ、その合意形成や計画作りには行政にも市民にも相当の時間とコストが発生します。


Aビジョン実現のために必要なインフラの整備
 たとえば「瀬上、谷戸のくらし野外ミュージアム」の構想を例にとっても、谷戸田や湿地の復活、水路の整備、散策者や作業者のための安全な遊歩道や木道、道標やマナー啓発の掲示板、休憩所やトイレ、市民のボランティア活動を支える倉庫、更衣室、会議室というような維持管理のための最低限のインフラは整備する必要があります。
将来的にはネイチャーセンターや文化財の展示施設、維持管理活動のための作業棟や駐車駐輪設備も考慮する必要があるでしょう。


B環境を維持管理する作業
 実は「実効ある保全」は、土地を所有あるいは占有し、インフラを整えたことによって実現するのではなく、これでようやくスタートが切れるのです。周辺住民や利用者への安全のためには、日常的な遊歩道や水路の整備がかかせません。人が集まることによる清掃やマナーの啓発なども日々の管理の一部です。そして私たちにとって最大の関心である、谷戸の景観と生態系や文化財の保全のためには、Bの内容をさらに細かく見ていく必要があります。 

 日頃から環境保全活動に携わっている方々にはご理解いただけることかと思いますが、「環境保全」とは3つの要素からなりたっています。
 文化財についても、基本的に同様な考え方をしてよいと思います。

(@)環境調査(モニタリング)
 そのフィールドにどのような環境があり、どのような生きものが生育あるいは生息しているのかを、継続的に調査することにより、その環境がビジョンや維持管理の目標に対して良好に維持できているのか、あるいはなんらかの変化をおこしているのかを把握することができます。
 またその結果によって、整備や維持管理の方法を評価して方法を見直すこともあります。
継続的な調査の実施は保全活動の第一歩です。


(A)環境管理
 保全のビジョンに基づいて管理計画が策定されます。
例えば谷戸の景観は、田んぼ、水路、樹林、草原、ため池などの多様な環境から成り立っています。田んぼや水路や草原を維持する活動はそのまま生きものの住処を守ることになります。生き物たちの生息環境という視点から、どのような状態で残すのかを決めて、その状態を維持していく作業が必要です。 草刈にしても、残すものと除くものを意識した草刈は機械刈りだけではできません。樹林の枝払いや間伐、それに間伐材の利活用にも工夫が必要です。
 このような作業を日々こなしていくことが「保全」なのです。


(B)環境学習(環境教育)
 せっかく保全しようとするフィールドですから、しっかり利活用したいものです。
ただ一方で、自然豊かな場所が少なくなった首都圏近郊においては、そこでの観察や遊び方のマナーも同時に啓発する必要があります。そのためには、観察会や環境管理の作業を通して、自然や文化財との接し方を身に付けてもらい、盗掘や採集への対策をはかる必要もあります。

 このように、生態系や生きものの保全だけを取り上げても、インフラの整備に加えて、草刈、間伐、水路整備、生態系調査、清掃、観察会やマナーの指導などにあたる「多くの人々」とそれがこなせる「スキル」と、個々の活動を統括する「保全計画と管理の仕組み」が必要です。
そしてこれらにはすべてコストがかかります。
 一時的なコストでなく、次世代に瀬上の森を伝えていくための終わりのないコストです。


9.協働によるコスト負担への提案(1)

 瀬上の森を保全するには、一時的な土地を所有あるいは占有するコストやインフラを整備するコストと、維持管理のために今後永続的に発生するコストのあることがわかりました。基本的にお金の問題です。
 私たちは、このコストの負担を、事業者(や地権者)の協力を前提に、行政と市民の協働で実現することを提案しています。


【所有や占有のコスト】
 土地を所有あるいは占有するためには、横浜市が広範な施策の中で緑地を残すことに優先度を置き必要な予算措置をとる方針を固めるのが大前提です。
これ以上負債を増やさないで財源を確保することは厳しい条件ですが、一括買収ばかりでなく、分割払い、長期の賃借、遊休地との等価交換などいくつも案が考えられますし国の支援を受ける道もあるでしょう。
 また負債に頼ることのできる部分があるとすれば、市民に対して「円海山緑地(または瀬上の森)保全債」を一般の市債よりも低金利(あるいは無利子)で発行するという方法もあります。横浜市民には、利息は次世代が享受する谷戸の景観として戻ってくるという夢が見れるだけの環境意識が育っているのではないでしょうか。

 その上で円滑に事業者の協力を得るため、例えば下記の項目をセットで実行することが効果的だと考えています。

(1)県と市が都市計画提案などの手続きの中で開発を抑制する意思を事業者に伝える。
(2)合わせて、市は計画地を買い取るあるいは借用する用意のあることも伝える。
(3)並行的に、市は下記の二つの施策に着手する。
  • 「市街化調整区域あり方検討委員会」の答申にある開発抑制方針の条例化を進める。
  • 「協働の森基金」の適用要件を緩和し対象を拡大するため、横浜市協働の森基金事業実施要綱(もし必要であれば条例も)の改正を行う。
 少し補足しますと、
 「市街化調整区域あり方検討委員会」は横浜市が設置した有識者による委員会で、市の緑地の大きな部分をしめる市街化調整区域のあり方をどうしていくべきかについての検討を行い、本年(07年)2月に市長に対し答申を提出しました。その内容の概要は、下記のHPからご覧いただけますが、そこに盛られた施策案を早期に条例化することで、事業者(や地権者)が第三者に転売することによる環境改変の余地を小さくすることが可能になります。
http://210.158.218.12/ne/news/press/200702/images/phpmcrxpk.pdf

 「協働の森基金」というのは、下記のような形で緑地を残す横浜市の制度です。

(1) 市民が集めた資金(取得費用の一割以上)と市の基金からの拠出金を合わせて樹林地を取得する。
(2) 市民の手で樹林地の管理を行う。

つまり、市民がお金と汗を提供して、行政と一緒に緑地を守っていこう、という趣旨の制度です。
 詳細については、下記のHPを参照ください。
 http://www.city.yokohama.jp/me/kankyou/area_green/kyoudou/index.html

 しかし現在の制度は「身近な小規模樹林地」を対象としており、現在の制度のままでは瀬上の森のような大きな緑地の保全のため、広範な人々から資金を集めることを想定した制度にはなっていません。

 私たちは、制度の高邁な趣旨を生かしながら、多くの市民の資金と汗が生きるように、
  • 対象の緑地の規模を拡大すること
  • 地権者との交渉に行政がかかわれるようにすること
  • 市民が特定の緑地を指定して基金に寄付したお金を「市民が集めた資金」として活用できること
といった制度の見直しを求めていきます。

 市民の資金力が計画地の全部をカバーするには及ばず一部への適用に限定される可能性もありますが、少なくとも市民と行政の協働で緑地を守る、市民も応分のお金と汗を負担するという趣旨に沿った支援が、税金の投入に対する行政の対外的な説得力を強め、前向きな判断を後押しすることになると考えています。


10.協働によるコスト負担への提案(2)

【維持管理のコスト】

 日常の維持管理にかかわる終わりのないコストは、市民が主役で負担していくことが基本であると考えます。
 初期投資とも言えるインフラ整備や、大きな作業、危険を伴う作業は行政が行うことが合理的です。
 一方で、草刈、水路の補修、枝降ろしや間伐、生態系調査、清掃、観察会やマナーの指導というような日常的な活動や作業があってこそ、そのフィールドに来られる方々も、生きもののにぎわいを感じ、安全に散策できるのですが、その大部分は市民が中心になって活動できますし、ボランティア人材の育成やスキルの継承とともに管理計画や運営にもかかわることが可能です。

 すべての市民がフィールドを楽しむ側だけに留まっていれば、これらの維持管理は行政が税金を使って実施しなければならなくなります。また税金による作業はどうしても効率を優先してしまい勝ちであり、草刈の時に残すべき野草を選別しながら作業するというような環境や生態系への十分な配慮は期待できなくなります。

 市民と行政の協働という大きな流れの中で、既に同様な事例が各地のフィールドでも見られます。現在、瀬上の森でも私たちを含めて複数の環境保全ボランティアグループや愛護会による活動が行われており、まだ不十分なインフラの中で多くの市民が環境保全活動に汗を流しています。

 しかし計画地は広大なフィールドです。それを行政と市民の協働による維持管理の対象とするのであれば、市民側も現在の環境保全ボランティアの活動をもっと大きく育てていく必要がありますし、市に対しては市民による保全管理活動を育成する支援を求めたいと考えています。

 このような背景から「瀬上、谷戸のくらし野外ミュージアム」構想では、野外ミュージアムの機能の中で人材の養成を重視しています。また多くの方が参加できるような保全活動の柱として、谷戸田の復活を提唱しています。谷戸の景観の中に水田の存在は欠かせませんし、田んぼの作業を通じて生きもののにぎわいを支える環境が維持されます。それに何よりも、子供達からリタイヤされた方々に至るまで、田んぼの作業なら手伝ってみようか、という人が多いことは各地のフィールドで明らかになっています。

 谷戸の景観の中で、人材を育てスキルを継承しながら環境を保全していく、という活動に多くの市民が参加すること。それ以上の「実効ある保全」はありません。


11.実効ある保全とは

 最後に、大変重要なポイントですが、もし都市計画の提案が認められて事業者の開発計画が、原案のまま、あるいは規模の縮小や部分的な見直し程度で進むことになれば、瀬上の森の保全は実現できないのでしょうか。開発が止まれば勝ち、開発が進めば負け、というような対立的な考え方を私たちはとりません。

 緑地や水辺をできるだけ残したいという気持ちは当然ですが、総合的な判断の中で開発の可否がどのように判断されたとしても、どこにどのような生きものがいて、それを守るためにはどのような環境を残し、この環境は取り返しがつかないがこの環境なら代償できないのか、などという課題に具体的に取組めるのがそのフィールドで活動する環境保全ボランティアであると考えています。

 私たちは事業者の現在の計画を前提にしたアセスのプロセスにおいて、計画がそのまま進んだとしても残された50%の緑地の中で湿地や水辺を再生し、瀬上の森の景観と生態系や文化財を可能な限り保全していく方法や条件を検討し、行政や事業者にも提案してきました。
 現在考えられる最も厳しい条件の中でも工夫次第で「瀬上、谷戸のくらし野外ミュージアム」実現に向けた道はあると考えていますので、事業者(や地権者)の更なる理解と協力、行政の決断と支援、そして多くの市民の保全活動への参加があれば、保全の範囲は確実に広がります。

 この横浜を、自然豊かで、安心安全で、活気のある街にしていくことは皆さんの願いだと思います。一方で財政再建途上にある横浜市の現状を考えれば、自分でできることは自分でする、行政と協力して実現できることは協力してやる、という姿勢を、瀬上の森の保全にも生かしていきたいものです。それが「実効ある保全」に取組む姿勢です。

 つまり、私たちの目指す瀬上の森の「実効ある保全」とは、開発計画が「止まる」「進む」ということだけで決まるのではなく、今後の慎重かつ厳正な審査や評価を前提に、「市民、行政、事業者(や地権者)のビジョンの共有と協働、そして市民による環境保全活動」によって実現すると考えています。

 三者それぞれがWin、Win、Winを享受できる関係が私たちの目標です。

 私たちは環境保全活動にたずさわるボランティアとして、「谷戸の景観と生態系や文化財の適切な(実効ある)保全」のため、本当に残さなければならないものは何か、それはどうすれば残していけるのか、という視点から今回の開発計画を見てきました。そしてこれからもフィールドに根付いた環境保全活動や実効ある保全に向けた提案を行っていきたいと考えています。