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パンダを探してみませんか

まもなく梅雨明け、そして夏休み。瀬上の森でも、夏草と呼ばれてしまう野草たちが太陽の光をいっぱいに浴びながらどんどん高く広く成長しています。

その中でひときわ元気なつる草に「クズ」があります。
秋の七草であり、クズ粉の材料にもなり、かってはクズ布として衣類の繊維もとられていた人間とのかかわりの深い植物ですが、この季節だけはやっかいもの扱いされがちです。
ただ、身近な生きものであるだけに、自然観察会の素材としては、自然豊かな場所だけでなく、ちょっと緑の残っている街の中や公園などでも使える便利な生きものでもあります。

楽しみ方や観察のポイントはいろいろありますが、この時期に注目してほしいのは葉っぱの姿です。日なたの葉っぱと日陰の葉っぱを比べると、どこか違っていませんか。クズはマメ科の植物の特徴である複葉とよばれる葉になっていてクズの場合、一見3枚一組に見える葉の集まりが一枚の葉になっています。その3枚の真ん中の一枚に注目すると、日なたでは垂直に上を向いているのに、日陰では他の2枚と同じように水平に開いていませんか。


ご存知のように葉というのは太陽の光を受けて光合成で栄養を作るという役割を担っているので光があった方がいいのですが、過ぎたるは及ばざるがごとし。あまりに太陽の光が強過ぎるときには、葉っぱを立てることで受ける光の量を調整しているらしいのです。それでは光のない夜は、この葉っぱはどうしているのでしょうか。光のない時間は光合成ができませんので葉を開くという無駄なエネルギーを使わないように3枚とも下向きに折りたたまれてしまいます。ちょうどネムノキの葉っぱが夕方から眠るのに似ていますね。
生きものは自然に省エネモードに切り替えできるようです。

ところで、このクズの葉を見ていると、時々、白と黒の二色に塗りわけられた小さな可愛い虫を見つけることがあります。鼻が長く見えることからゾウムシの仲間だということがわかります。図鑑の名前はオジロアシナガゾウムシと言いますが、子供たちとの観察会ではパンダゾウムシという通称で呼んでいます。身を守るために体の色を鳥の糞のように見せているという工夫に気づくためには白と黒の混じったパンダという名前の方がお似合いかもしれません。

ところでこのパンダ。実は、親が卵をクズのツルに産み、ツルを肥大させた中で孵化して、幼虫は肥大したクズの中身を食べて成長し、そのままサナギになります。そして成虫になってようやくクズから出てきます。秋から冬の草刈で、クズのツルに穴の開いた丸いふくらみを見つけたらそれがパンダ達の出た跡です。

嫌われ者にもなるクズのツルですが、パンダ、すなわちオジロアシナガゾウムシという小さな生きものにとっては、まさに大宇宙にも似た生命のゆりかごなんですね。

酔蛍(08.07.17)
ホタルと谷戸のモザイク

夏至を過ぎ、瀬上の森でもゲンジボタルのピークを過ぎました。
日本ではホタルというとゲンジとヘイケが有名で、瀬上の森でも両方のホタルが見れますが、
ヘイケはゲンジにくらべて地味な存在のせいか、気付かれる人もあまり多くないようです。

日本では水辺とホタルが一対で正しい初夏のイメージですが、幼虫が水の中で過ごすゲンジとヘイケというのは、世界的に言えば、大変珍しいホタルだと言われています。ホタルは基本的に熱帯性の生きもので、世界中にたくさんの種類がいますが、多くは幼虫が陸上で過ごす「陸生ホタル」です。瀬上にも何種類かの陸生ホタルがいますが、ホタルの専門家以外には、ヘイケ以上に一般の方の関心はなさそうです。

ところで、代表的なゲンジとヘイケは名前のつけ方が対象的なだけでなく、生息の環境や生態にも大きな違いがあります。例えば、ゲンジは流れる水のあるところで発生しますが、ヘイケは止まった水辺である田んぼや湿地のようなところで発生します。


カワニナとサカマキガイ
ホタルの幼虫がカワニナという巻貝を食べることはご存知の方も多いと思いますが、これはゲンジの話。ヘイケの幼虫は止水に多いモノアラガイやサカマキガイやタニシの仲間を食べていますが、けっこう悪食なようで、貝以外の生きものの死骸なども食べるようです。

ゲンジはヘイケよりも一回り大きく、胸の赤い部分の模様がゲンジは十字、ヘイケは太いストライプと見ればわかるのですが、さすがに夜は光り方で見るほうがわかりやすいですね。大きくボオッと光ってボオッと消えるのがゲンジだとすれば、ヘイケは小さくチカチカチカという感じです。私はホタルの観察会で、ゲンジは京都のお公家さん、ヘイケは大阪の商売人、と表現するのですが、ご想像いただけるでしょうか。

陸生ボタルもまたゲンジヤヘイケとは違った生活をしていますが、このように瀬上の森にいろいろな環境を好む何種類ものホタルがいるということは、谷戸というのはモザイク模様のような多様な環境から成り立っている、ということでもあります。逆に言えば、瀬上の森の実効ある保全にとって大事なのは、何よりもこのモザイク模様を守り、維持していくことです。

谷戸の環境もそのままにしておけば、ため池には泥がたまり、湿地の乾燥化は進み、変化の少ない環境になっていきます。その変化(遷移といいます)が進まないようにしてきたのが、田んぼや畑の農作業であり、雑木林などの樹林の作業でした。

瀬上の森の環境保全ボランティア達の活動も実は農作業や山作業に代わって、水路や湿地や樹林の遷移を止める作業なのです。つまり、今も瀬上の森は人の手によって守られている環境なのです。

08年6月27日 酔蛍
あるがままに見る

前評判ほど天気が良くなかったとは言え、連休の瀬上の森では樹林にうっすらと白い雲を浮かべたようなミズキの花が広がり爽やかな季節を感じさせてくれました。

足元に目を落とすと、遊歩道沿いに白に薄いピンクも重なる小さなキクの花があちこちに咲いています。場所によっては、貧乏草などという可愛そうな名前もつけられたりしていますが、4月から5月にかけて咲くハルジオンです。またこの花とよく似た花が初夏から咲くのですが、こちらはヒメジョオンと言います。ただ歩いているだけでは、ずっと同じ花が咲いているように思うのですが、気付かないうちに全く違った種の花と入れ替わってしまっている、ということになります。

ハルジオン
両方の花が一緒に咲く時期はそれほど長くはないのですが、その違いを見つける、というのはこの季節の自然観察会の定番の一つです。茎が空洞か詰まっているか、葉が茎を少し抱いているかいないか、(どちらも前者がハルジオン、後者がヒメジョオン)というのも大事なポイントですが、一番分かり易いのは、ハルジオンは花のつぼみが下を向いてうなだれたようになっている、という特徴でしょうか。
これについては、エピソードがあります。体操競技で落下して頚椎を損傷し、首から下の自由を奪われ、口で花を中心に素晴らしい絵を描いておられる星野富弘さんという方をご存知の方も多いと思います。
この方が、お見舞いに来られた方の持ってこられた野草を絵に描こうとしたのですが、道で摘まれて時間がたったせいかツボミがしおれたようにうなだれてしまっていたそうです。そこでしおれる前の元気な形で描いてあげようか、とも迷ったそうですが、結局しおれたままでスケッチをされました。後で、あれはツボミがいつもうつむいているハルジオンという花だということを知って、一瞬迷った自分を反省された、というお話です。

食品偽装などで、ちょっと気になることを、これくらいなら、という判断で曲げてしまったことが、取り返しのつかない結果を招いた例がたくさん発生しています。もし星野さんが、上を向いたツボミをつけたハルジオンの作品を発表したとしたら、わざと欺こうとしたような意図はないとしても、画家としての信頼を失う結果になったかもしれません。

あるものを、あるがままに見て受け入れる、というのは自然観察に限りませんが、とても難しいことのように思います。

それは、自分で確認した事実でしょうか。それとも伝聞でしょうか。私たちが環境保全ボランティアとして「実効ある保全」と言う時には、調査に基づく保全生態学的な合理性とそれを実行する行動の裏付けがあるか、ということを重視しています。また、環境保全の基本も、調査の結果を常に管理計画に反映して修正していく「順応的管理」にあると考えています。

そうそう、ハルジオンをハルジョオン、ヒメジョオンをヒメジオンと呼んでしまうこともあるようですが、正式な標準和名は、春紫?(ハルジオン)と姫女?(ヒメジョオン)ですのでお間違いなく。

08年5月5日 酔蛍
在来種を追い詰めたのは誰?

瀬上の森ではサクラの季節が終わり、木々の若葉の芽生えが数日で森の色を変えたように思います。足元に目を落とすと、遊歩道沿いや草地のあちこちにタンポポの花と綿毛が目立ち始めました。この季節の自然観察会などでも、タンポポは素材としてはずせません。

タンポポの花は咲き終わると一度地面に寝そべってしまいますが、やがて種が熟すとまた立ち上がります。その時にはもとの花のあった位置よりも高いところまで伸びるのです。種を風で広げる植物の工夫ですが、このお話は横浜の小学生たちはとてもよく知っています。国語の教科書に、このタンポポの生態の話がのっているからです。

とはいえ、花と綿毛のあるタンポポを見つけたら、ぜひそばに行って確認してみましょう。頭ではわかっていても、実際にフィールドで実物を見ると、しっかり納得できるものです。

もう一つ、タンポポの観察の視点は、在来種と帰化種の関係です。
このあたりの在来種といえばカントウタンポポ、帰化種と言えばセイヨウタンポポ、ということになります。少し詳しい人なら、在来種と帰化種の交雑の可能性とか、セイヨウタンポポと見えて実はアカミタンポポが混じっているようだ、とかいろいろ難しいこともあるのですが、えいやっ、と大まかに割り切れば、在来種と外来種の見分け方は意外と簡単。


カントウタンポポ総苞

セイヨウタンポポ

花を横から見ると花の付け根に緑のおわんのような部分(総苞)がありますが、そこにある小さな鱗(総苞片)がピタリとくっついているのがカントウタンポポ、反り返っているのがセイヨウタンポポ、ということをご存知の方も多いと思います。何回か花をひっくり返して、どちらかな、とチェックしていると、その後はタンポポを見つけるたびに気になるものです。

ところで、この二種の関係というと、外来種で悪役のセイヨウタンポポが在来種で善良なカントウタンポポを追い詰めているかのように思っておられる方もありますが、今日はセイヨウタンポポのために彼らの濡れぎぬを晴らしてあげたいと思います。

もともとサラダの材料として日本に持ち込まれたと言われているセイヨウタンポポは、日当たりのよいところが大好きです。瀬上の森でも、遊歩道沿いの陽のあたりやすい場所にはセイヨウタンポポが多いようです。一方でカントウタンポポは草が生い茂りそうな場所に咲いています。これから夏になって回りの草の背が高くなると、カントウタンポポは日陰に入ってしまいますが、これを幸いとばかりに眠り(夏眠)につきます。そして秋に草を刈られて明るくなると、再び太陽の光を葉にあびて根に栄養を蓄え来年に備えます。

ところが、セイヨウタンポポは、街の公園や道路沿いなど開けたところでは、他の花と花粉の交換をしなくても種のできる特徴も生かしてどんどん広がりますが、夏草が生い茂り陰になる場所では枯れてしまうのです。つまり、セイヨウタンポポはカントウタンポポを駆逐するどころか、カントウタンポポが好きな場所では生きていけないのです。

カントウタンポポが減ったと言われるのは、セイヨウタンポポに負けたからではなく、田んぼの周りの斜面に夏草が茂り、それを人が定期的に刈り取るという里山の農作業で維持されてきた環境そのものが減ってきたからなんですね。そんな環境を無くしたのは、誰あろう、私たち人間です。
在来種のカントウタンポポを守るというのは、私たちと谷戸のくらしとのかかわりを取り戻すことでもあるのですね。

08年4月15日 酔蛍
花冷えの夜の雨の中で、、、

 間もなく瀬上の森にホタルの季節がやってきますね。瀬上の森がひときわにぎやかになります。

これまで10数年、瀬上の森で地域の子どもたちと一緒に、ホタルの紙芝居を使って観察マナーの啓発をやってきました。
紙芝居の合間に、ホタルを見に来られる方々といろいろな会話もかわしてきましたが、よく耳にしたのは、今年はホタルが多いとか、去年はもっと多かったとか、というお話です。
ホタルは増えているのですか、減っているのですか、というような質問もよくされます。

おそらく大部分の方々がホタルの鑑賞に来られるのは、一シーズンに1回か2回だと思いますが、シーズンを通してホタルを見ていると、出現しているホタルの数に年毎の変化はもちろんありますが、だからと言って毎年それほど大きく振れているわけではありません。

それよりは、見に来られた時期とか、気温や風の状態とかが、その日の出現の数に影響していることも多いように思います。
自然や生きものを相手にする楽しさは、あるいはこの思い通りにならないところなのかもしれません。

それでもホタルがたくさん出てきそうな時期は経験的にもわかりますし、ある程度予測できないわけではありません。それが上陸調査です。ホタルの用語で「上陸」というのは、水の中での生活を終えたホタルの幼虫が、土の中でサナギになるために陸上に上がってくることを言います。

桜の花びらが水に浮かぶ頃の雨の夜、目が良い人なら、湿った岸辺にかすかな光を見つけることができるかもしれません。
ゲンジボタルやヘイケボタルは幼虫も光るのですが、成虫に比べればとても淡い光です。



この上陸の後、つまりサナギになってから約50日で成虫が飛び出しますので、上陸のデータから大まかな発生のピークが予想できます。
上陸調査は、夜の寒い雨の中でじっと水辺を見つめ、かすかな光を探すという根気のいる作業です。
雨の降る夜は瀬上の森で「瀬上沢とホタルを守る会」のホタルボランティアたちが頑張っているかもしれません。

ただ、夜間の市民の森への立ち入りは基本的に禁止されていますし、人気のない雨の夜の水辺ですから安全上の問題もありますので、森の中では一般の方の上陸の観察はお勧めできません。

また、上陸から成虫が飛び出すまで、水辺の土の中には土繭に包まれたサナギがいる可能性があります。
これからしばらくは、昼間も、できるだけ水辺に近付かない、土の上には乗らない、というのが、誰にもできるホタル保護への協力です。

(4月3日 酔蛍)